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鉄筋コンクリートなのに騒音地獄 「音」が怖い人の“これしかない”賃貸物件選び

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文/朝倉 継道 イメージ/©rawpixel・123RF

うるさい木造アパートから逃げ出してはみたものの

以前、かわいそうな賃貸住宅の入居者に出会ったことがある。仮にAさんと呼ぼう。Aさんは、音楽活動をしていたが、それだけに「音」にはとても敏感だった。木造アパートに住んでいたが、しょっちゅう人を呼んで騒ぐ隣室の騒音に耐えかねて、逃げ出すように引っ越した。

移った先は、鉄筋コンクリート(RC)造3階建ての賃貸マンションだった。仲介会社の窓口で、Aさんは、「いまの部屋は壁が薄いので、とてもうるさい」と事情を話した。

それに対し、スタッフは、

「だったらRCのマンションです。音には断然強い。希望のお家賃で探しましょう」

そう言われ、見つけた恰好の物件だったが……

「前の部屋よりも、隣の部屋の音が一段と響くんです……」

ガックリと肩を落としたその理由は、なんだったのだろうか?

 

RCの壁は片方だけ

この事例、実は「賃貸マンションあるある」だ。ところが、なぜか世の中にあふれる「物件選びノウハウ」にはあまり登場しない。なぜだろう? 理由はよく分からないのだが、とりあえず話を進めよう。

Aさんが選んだ物件は、たしかに音に強いといわれる頑丈な造りのRCマンションだった。しかし、肝心の遮音性の高いRC壁は、部屋のどの面にも存在しているわけではなかった。

Aさんの部屋の場合、片方の隣室との間にある壁はRCだった。ところが、もう片方は違っていた。そこにあるのは、ごく薄い造りの「戸境壁」だった。

木造アパートとなんら変わらない、2枚の板か、もしくは石膏ボードが、グラスウールなどを挟んだだけの簡単な仕様だ。

隣人のくしゃみもいびきも、もちろん会話も足音も、何もかもが筒抜けの、まるでクリームウエハースを拡大したものをそこに立てかけたような、貧弱な壁だった。

 

鉄筋コンクリートはどこに?

すると、頼みのRCはどこにあるのか? RC壁は、戸境壁を挟んだお隣の部屋の、さらに向こうにあった。

つまり、Aさんの部屋と、薄い壁を隔てた隣の部屋の関係というのは、実質、RCとRCに挟まれた広い空間を間仕切りで2つに別けたにすぎないのだ。そう。いってしまえば、2部屋は同室のようなもの。

「内見のときに、壁を叩いてみるべきでした」

Aさんがそう嘆くとおり、Aさんの部屋の壁の片方の、RC側を叩けば、軽く小突いただけでも拳の骨が痛くなるほどに硬い。まさに「鉄筋コンクリートここにあり」の存在感だ。

しかし、もう片方はダメ。叩くと「ボン、ボン」と音は反響。典型的な板もしくはボード壁の響きが、部屋に空しく満ちてしまう状態だった。

「お隣の声ばかりか、玄関ドアの開け閉めの様子までがこちらに伝わってきます。気圧の変化で、壁がそのたびにたわむからです。ミシッ、ミシッと、地震が来たときみたいに音が鳴る始末です」

騒音に強いと、一般にいわれがちなRC賃貸マンションによくある以上の落とし穴。本当によくある。音が気になる人は、ぜひとも気を付けてもらいたい。

 

 

分譲マンションを狙え

では、そうしたガックリを防ぐにはどうしたらよいか? 一戸建てという選択肢はとりあえず措き、ここではあくまで集合住宅をベースに考えてみよう。

なお、運さえよければ、どんなに壁の薄いアパートでも、静かな生活を手に入れることはできる。マナーがよく、気遣いにあふれた隣人たちに、偶然恵まれた場合だ。

しかし、「そんな幸運への期待は不確実すぎる。ちゃんと構造自体、遮音・防音性能がしっかりした建物を」となると、みちは限られてくる。

そのひとつ。分譲物件を探すことだ。もともと堅固なRC造分譲マンションとして、購入者自身が暮らすマイホーム用に売り出された物件が、賃貸に出ているものを狙う。

この場合、そもそもが数千万円もの値段のする“終の棲家”用の部屋だ。赤の他人同士が暮らす住戸と住戸の間に、さきほどのような貧弱な仕様の戸境壁がハマっているということは、基本としてあり得ない。

なおかつ、建物は低層のものからあたってみることだ。

なぜなら、低層のRC造マンションでは、「壁式構造」が採用されることが多い。壁自体が鉄筋コンクリートで造られているので、遮音・防音性能にすぐれた物件に当たる確率が高くなる。

一方、中高層のRC造マンションでは、柱や梁が鉄筋コンクリートで組まれる「ラーメン構造」が採用されやすい。壁式構造では建物が重くなりすぎるためだ。

ラーメン構造の場合、遮音・防音性能については、使われる壁材の種類や厚さ、どう設計が工夫されるかが、勝負の分れ目となる。

究極の存在 音楽家向けマンション

さらに、「もっと音に強い部屋を」ということになれば、音楽家などを主なターゲットにした、音楽家向け防音賃貸マンションという選択肢もある。

24時間いつでも部屋の中でグランドピアノの演奏さえ可能、外にはまったくといっていいほど音が漏れないなど、究極の仕様になっている。(物件によって多少差はある)

もちろん、音は、漏れないのに加え、周りの部屋や外からも入って来ない。なので、こうした物件で、実際に楽器演奏をしてもらうなど、性能を体験してみると……

「部屋の中でどんなに叫んでも、外に気付いてもらえない!」
「周りで何か起きても分からない!」

逆に、多くの人が気付かされる。つまり、やや怖くなってしまうくらいの、実にものすごい性能だ。

 

 

賃貸での音のストレスは危険なレベルに迫っている?

以上、賃貸で音の問題に苦しまないための2つの選択肢を挙げてみた。が、「なんだか釈然としない」という人も、多分多いだろう。

賃貸市場で流通する分譲マンションも、音楽家向けマンションも、総じて家賃が高い。しかも数は少ない。分譲物件に至っては、単身向けの手ごろな広さのものが基本的に少ない。

「結局のところ、現実的な選択肢にならないじゃないか」と言われれば、まったくそのとおりだ。

すなわち、現在の日本の賃貸住宅における音の悩みというのは、賃貸に住み続ける限りほぼ逃れられない宿命的なものに近い。

一方、それに対するマーケットの不満といえば、いまや危険なレベルにまで迫ってきているのではないかと、このごろ肌で感じている。

昨年の5月、東京・足立区のアパートで、男性が刺し殺される事件が起きている。刺したのはそのアパートの住人で、きっかけは騒音トラブルだ。

 

さらに今年の4月にも、大阪の大東市で女子大学生が殺されている。こちらも容疑者は同じ賃貸マンションの住人。原因は、ほぼ騒音トラブルとみられている。

なお、耐震性能の問題などでも見られるように、建物の性能というのは、行政が規制を設けてコントロールしなければ、容易に変化が進まないテーマでもある。

賃貸に暮らしながら人生を終える人々が今後さらに増えていくと思われるなか、行政や社会に向けた、入居者、オーナー、不動産業界、建設業界等々、各々のポジションから挙がる声が、いま、まさに待たれるといったところだ。


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